今回の体験談は寄せて下さった方ご本人が胸を痛めていることに加えて、国の制度の不備に対する改善の提言もしています。
女性ならでは悩みでもある『仕事をやめなければ妊娠生活のお腹の赤ちゃんの安全が確保できない・・・』
今、さまざまな企業が『産休制度』を規定上は設けていますが、
販売職で立ち仕事、さらに代わりになってくれる人材の確保も難しいという状況では『産休制度がただの規定上の空論になっている』という矛盾も生じています。
そのために何人もの女性が辞職せざるを得なくなっているという問題です。
国が『少子化対策が最重要課題のひとつ』と位置付けているにも関わらず、それが出来ない『現場の事情』には一切介入しようとせず無関心でなんの解決策も持っていないのに対しては、今まさに論争の最中ですが、国家の最重要事態である『少子化による人口減退』を解決するには『現場で起こっている事実と事象に対応すること』ができなければ本当の解決は不可能。
今回は一個人で考えるにはあまりにも壮大なテーマかも知れませんが、今後の自分が住む選挙区でこの問題を取り上げない政治家には投票しないというくらいの考えは最低限でも持って読むことをおすすめします。
ではわたし自身も以前に妊娠したことで辞職せざるを得なかったうちのひとりとして一緒に読んで行きたいと思います。
仕事と妊娠生活とのバランスは女性にしか分からない悩み
私が妊娠中困ったことは、仕事との妊娠生活とのバランスでした。
三十歳を過ぎて初めての子供を妊娠した私は、当時販売業についていて、 店長職を任されていました。
どちらかというと古い体質の会社だったので、それまで産休を取った人は数人しかいませんでした。
しかも事務職の方たちばかり。
立ち仕事でシフト制の店頭販売のスタッフで、産休を取得した例はありませんでした。
後輩のためにも私が販売職の中で初めての産休制度を利用しようと考えていました。
サービス業でも子育てができることを証明したかったのです。
そのためには家族からの協力も得なくてはいけません。
土日祝日も休むことはできないので、保育園選びが困難になることも想定内でした。
全ての事情を説明した上で、義母の自宅(主人の実家)近くに引っ越しをしたぐらいです。
とにかく妊娠したことと仕事はやめたくないし産休制度は誰が使っても良いということを証明するためには『たとえどんな些細な手助けでも必要』だったんです。
妊娠中のつわりと販売職現場の乖離(かいり)は乗り越えることができる
妊娠してほどなくして、つわりが始まりました。
話には聞いていましたがかなり辛いもので、本当にドラマのように突然吐き気がこみ上げてくるような状態でした。
さらに私が扱う商品は、食品だったのです。
店頭でお客様に召し上がっていただくコーナーもあり、つわりの体には酷な環境でした。
それでも病気ではないので、 何とかつわりのたびに牛乳を一気飲みして吐き気を抑えていました。
重たいものを持つような場面もあったのですが、 それだけは周りのスタッフに遠慮なくお願いするようにしていました。
お腹の赤ちゃんの安全と仕事をやめたくないわたしの想い
ある時定期検診で、母体の状態が良くないことを知らされました。
赤ちゃんを包む胎嚢(たいのう)という袋が、きれいに膨らんでいなかったためでした。
先生曰く『このままだと赤ちゃんが圧迫されてしまい良い状況ではない』ということを伝えられました。
先生からは『立ち仕事なのは分かるけれど、薬の服用と、 できれば安静にしていてほしい』ということを告げられました。
それでもこの先の向こう一か月分のシフトはもう出来上がってしまっています。
余剰人員はいないカツカツの人数で運営していたので、私が休むためには、 誰か他のスタッフが休みを返上して出てくれるしかありません。
同字経営者の同系列他店も同じような状況なので、他のお店から人員を借り出すヘルプをお願いするわけにはいきません。
事情を打ち明けた副店長がなんとか調整してくれて、週の出勤日数を減らしてくれるように配慮してくれました。
周りのスタッフには申し訳ない気持ちでいっぱいでした。
このままの状態では産休を乗り越えられるのだろうか?・・と真剣に考えるようになりました。
会社には産休の制度はしっかりとあります。
しかしそれはあくまでも規定上のことであり、現実問題として販売業で妊娠しながら働くことは、周りにかなりの負担を強いることになります。
だったら配置換えを希望するという方法もありますが、 販売業一筋でやってきた私にとってその選択肢はありませんでした。
子供のことが一番大事。
自分がいなくても会社は回る。お客様は来る。
そう思うと悔しいけれど、優先順位が見えてきたような気がします。
これからの会社の発展のために、妊娠したスタッフや、 出産した後のスタッフの待遇改善などに着手する余裕は私にはありませんでした。
周りに負担をかけている、 それを快く思っていないスタッフもいるとわかっていたからこそ、大それた行動に踏み込む勇気がなかったのです。
そうやって諦めてきた女性スタッフが今まで何人いたことでしょう。
女性に優しい社会をいくら国が作ったところで、 実際現場では少ない人数でお互い助け合いながら、埋め合いながら仕事をしているものなのです。
6ヶ月を過ぎたあたりから、つわりはぱたりとなくなりました。
私もそれまで休んでいた分、 またフルで出勤するようになりました。
有給も妊娠初期でほとんど消化してしまいました。
その時点で私の心はもう決まっていました。
会社に退職願を提出したのです。
退職を決意したわたしへの周囲の反応
「産休を取るのかと思った」と上司には言っていただきました。
「 モデルになって欲しかったのにな」という言葉をかけてくれた女性の上司もいました。
でもそれがどれだけ難しいことかも、現場のスタッフは分かっているのです。
私がもしもコンサルタントとして働くならば、いざという時のための余剰スタッフを配備することを提案すると思います。
全店共通で3名もいれば十分だと思います。
産休の穴埋めはもちろん、妊娠初期で辛い時や子供を産んだ後に急に熱が出た時、そのような専門のスタッフがいれば、 休むほうも休みやすく、周りのスタッフに過度な負担がかかることもありません。
この問題は妊娠や子育てだけではなく・・
この問題は妊娠・出産・子育てだけとは限りません。
親の介護、自分の心の病気、身内が亡くなった時、有給が消化できていない時・・・などなど・・有給やまとまった休みが必要な事例はいくらでもあるはずです。
今まで休みたくても休めなかった環境の人たちが、 余剰スタッフ制度があることで随分救われると思うのです。
経費がかかる問題だとは思うのですが、実際に売り上げをあげる先兵である現場スタッフが妊娠や出産、育児によってやめてしまわない、貴重な人材確保の方法になると思います。
そのためには企業の努力だけでは無理な部分もあると思います。
例えばの話ですが、実際にその企業の中で何人から産休や育休などの申請があり、その証明ができる診断書や証明書類があれば、それを提出することで企業が税金を免除してもらうなどの細かい部分の措置です。
もっと進んで国が最重要課題として少子化対策をあげるのなら、国が企業に余剰スタッフ分の給料を補助として支給するのもひとつの方法だと思います。
何事も綺麗事ではうまくいきません。
現実問題でお金と生活があり、それと妊娠・出産・育児などの個人の人生計画の乖離を起こさないような減免措置が企業とそこに働く国民も救うことになるのではないでしょうか。
仕事を辞めたことは後悔はしていませんが、その後も妊娠をきっかけに退職するスタッフが多いという現実に『わたしが先例を作れなかったこと』に胸を痛めています。