「常に鼻がグズグズしてる…」「寝起きに鼻水がドバッと出てくる…」「これって普通の鼻炎とは違う気がするんだけど…」
妊娠中のママさん、こんにちは。新しい命を育む喜びを感じる一方で、これまで経験したことのない体の変化に戸惑うことはありませんか?特に、鼻水や鼻づまり、くしゃみといった「鼻の不快感」は、多くの妊婦さんが抱える意外と深刻な悩みの一つです。
「薬は飲めないし、どうしたらいいの?」「このまま出産まで続くのかな?」と、不安やストレスを感じる方もいらっしゃるかもしれません。ご安心ください。妊娠中の鼻のトラブルは、多くの場合、一時的なものであり、適切な対処法を知ることで、不快感を大きく軽減することができます。
このページでは、妊娠中の鼻水・鼻づまりの根本的な原因を「ホルモン性鼻炎」という視点から深く掘り下げ、西洋薬の使用が限られるこの時期に頼りになる「漢方」の智慧と、ご自宅で手軽に実践できる「自然療法」を詳しくご紹介していきます。
鼻の不快感を解消し、深呼吸ができる快適なマタニティライフを送り、来るべき出産と育児に備えましょう。

妊娠中の鼻の不快感、その正体は「ホルモン性鼻炎」?!
妊娠中に鼻水や鼻づまり、くしゃみなどの症状が現れる場合、最も多く考えられるのが「妊娠性鼻炎(ホルモン性鼻炎)」です。これは、妊娠に伴うホルモンバランスの大きな変化が原因で起こる鼻炎で、アレルギー体質ではない方でも発症します。
妊娠性鼻炎のメカニズム
- 女性ホルモンの影響:
- 妊娠すると、エストロゲン(卵胞ホルモン)やプロゲステロン(黄体ホルモン)といった女性ホルモンの分泌量が急激に増加します。
- これらのホルモンは、体内の血管を拡張させる作用や、粘膜をむくませる作用を持っています。
- 特に鼻の粘膜は血管が非常に豊富なので、ホルモンの影響を受けやすく、血管が拡張して粘膜が腫れたり、水分が溜まってむくんだりします。
- その結果、鼻腔が狭くなり、鼻づまりが生じ、また粘液の分泌も活発になるため、透明でサラサラした水のような鼻水が止まらなくなるのです。
- 血液量の増加:
- 妊娠中は全身の血液量が増加します。これも鼻の粘膜の血管に影響を与え、鼻づまりを悪化させる要因となります。
妊娠性鼻炎は、風邪のように発熱や喉の痛み、全身倦怠感などを伴わないのが特徴です。鼻の症状が妊娠前からあったアレルギー性鼻炎とは異なり、妊娠中に初めて発症したり、症状が悪化したりします。出産後、ホルモンバランスが元に戻るにつれて、自然に治まることがほとんどです。
風邪やアレルギー性鼻炎との見分け方
| 症状の種類 | 妊娠性鼻炎 | 風邪 | アレルギー性鼻炎 |
|---|---|---|---|
| 鼻水の色・性状 | 透明でサラサラした水様性が多い | 初期は透明、後に黄色や緑色の粘り気のあるものに変化することがある | 透明でサラサラした水様性が多い |
| 鼻づまり | 強い、特に夜間や横になった時に悪化 | あり | あり |
| くしゃみ | あり(特に朝方) | あり(初期に多い) | 連発する、特にアレルゲンに触れた時 |
| 喉の痛み・咳 | 基本なし(口呼吸による乾燥で喉が痛くなることはある) | あり | 基本なし(後鼻漏で咳が出ることがある) |
| 発熱・倦怠感 | なし | あり | なし |
| 目の症状(かゆみなど) | なし | なし | 強いかゆみを伴うことが多い |
| 発症時期 | 妊娠中に始まり、出産後に治まる | いつでも | 年中(ハウスダストなど)または特定の季節(花粉) |
判断に迷う場合は、必ずかかりつけの産婦人科医や耳鼻咽喉科医に相談しましょう。
漢方医学から見た「妊娠中の鼻の不快感」
漢方医学では、妊娠中の鼻水・鼻づまりも、単に「鼻の症状」として捉えるのではなく、ママの体全体(「証」)のバランスの乱れとして考え、根本的な体質改善を目指します。
特に「妊娠性鼻炎」の背景には、体内の「水(すい)」の滞り(水滞)や、「冷え(寒証)」が関係していることが多いと考えられています。
- 「水滞(すいたい)」:体内の余分な水分がうまく排出されず停滞している状態。透明でサラサラした鼻水が大量に出る、むくみやすい、めまい、頭重感などを伴う場合にこのタイプを疑います。ホルモンによる粘膜のむくみも、漢方ではこの「水滞」と捉えることができます。
- 「寒証(かんしょう)」:体が冷えている状態。冷え込むと鼻水がひどくなる、体がゾクゾクする、手足が冷たいなどの症状を伴います。冷えは血行を悪くし、粘膜の機能低下を招き、水分の代謝も悪くします。
- 「気滞(きたい)」:気の巡りが滞っている状態。ストレスや不安が原因で、自律神経が乱れ、鼻づまりが強くなったり、症状が長引いたりすることがあります。
これらの「証」に基づいて、個々の体質や症状に合わせた漢方薬が選ばれ、単に症状を抑えるだけでなく、体全体のバランスを整えることで、鼻の不快感を和らげ、快適な状態へと導きます。
妊娠中の鼻水・鼻づまりに頼りになる「漢方」と「自然療法」
妊娠中に鼻の不快感がある場合、まずは副作用の心配が少ない自然療法やセルフケアから試してみることをおすすめします。それでも改善しない場合は、漢方薬も選択肢の一つとなりますが、必ず専門家の指示に従いましょう。
漢方薬の選択肢と注意点
妊娠中の鼻の症状に対して、産婦人科医や漢方専門医が処方することがある漢方薬には、以下のようなものがあります。繰り返しますが、自己判断での服用は絶対に避け、必ず医師または薬剤師に相談の上、処方されたものを服用してください。
- 小青竜湯(しょうせいりゅうとう):
- 適応:「水滞」と「寒証」の症状が強い場合。透明でサラサラした水様の鼻水が大量に出る、鼻づまり、くしゃみが主な症状で、体が冷える傾向がある方に。
- 作用:体を温め、体内の余分な水分(鼻水など)を排出する作用があります。鼻炎の症状を緩和し、鼻づまりを改善します。
- 注意点:麻黄(マオウ)という生薬が含まれており、血圧上昇や動悸などの副作用のリスクがあるため、妊娠中の使用には慎重な判断が必要です。必ず医師の厳重な管理のもとで服用してください。
- 五苓散(ごれいさん):
- 適応:「水滞」タイプ。むくみ、めまい、頭痛、下痢、吐き気など、体内の水分の偏りや排出異常が原因で起こる症状全般に。鼻水もその一つです。
- 作用:体内の水分バランスを整え、余分な水を排出することで、鼻水やむくみを改善します。
- 妊娠中の使用:比較的安全性が高いとされ、むくみとともに鼻水・鼻づまりがある場合に検討されることがあります。
- 苓桂朮甘湯(りょうけいじゅつかんとう):
- 適応:「水滞」タイプ。めまい、立ちくらみ、動悸、頭重感、むくみ、そしてそれに伴う鼻水や鼻づまりがある方に。冷え性で、天候の変化で体調を崩しやすい人にも。
- 作用:体内の余分な水分を排出して水の巡りを改善し、自律神経のバランスを整えることで、鼻の症状やめまいなどの改善が期待されます。
- 妊娠中の使用:めまいやむくみとともに鼻水・鼻づまりがある場合に検討されることがあります。
- 葛根湯加川芎辛夷(かっこんとうかせんきゅうしんい):
- 適応:比較的体力のある方で、鼻づまりが特に強く、慢性的な鼻炎や蓄膿症傾向がある方に。頭痛や肩こりを伴うことも。
- 作用:鼻の通りを良くし、鼻づまりを改善する作用があります。
- 注意点:葛根湯と同様に麻黄が含まれるため、妊娠中の使用には慎重な判断が必要です。
妊娠中でも安心!自然療法のセルフケア
薬に頼りたくないママのために、ご自宅で手軽にできる自然療法をご紹介します。
- 鼻うがい(生理食塩水で):
- 鼻腔内の分泌物やアレルゲン、花粉などを洗い流し、鼻粘膜の炎症を抑え、乾燥を防ぎます。鼻うがい用の専用キットや生理食塩水が市販されています。
- ポイント:人肌程度のぬるま湯(36〜38℃)に生理食塩水(0.9%塩分濃度)を溶かして使用しましょう。耳の奥に水が入らないよう、声を出しながら行うと良いでしょう。
- 加湿と温めるケア:
- 加湿器の活用:寝室やリビングの湿度を50〜60%に保ち、鼻腔の乾燥を防ぎましょう。
- 温かい蒸気:蒸しタオルを鼻の周りに当てたり、洗面器にお湯を張って蒸気を吸入したりすることで、鼻腔が広がり、鼻づまりが一時的に楽になります。
- 体を温める:首元や足元を冷やさない服装を心がけ、温かい飲み物(白湯、生姜湯、ノンカフェインハーブティーなど)や、体を温める食材(根菜類、生姜、ネギなど)を積極的に摂りましょう。
- 寝姿勢の工夫:
- 枕を高くする:上半身を少し起こして寝ると、鼻水が喉に流れにくくなり、鼻呼吸が楽になることがあります。
- 横向きに寝る:詰まっている方の鼻腔を上にして横向きに寝ると、重力で鼻の通りが良くなることがあります。
- 鼻腔拡張テープの活用:
- 市販されている鼻に貼るタイプのテープです。鼻腔を物理的に広げ、空気の通りを良くする効果があります。薬ではないので、妊娠中でも安心して使用できます。
- アロマテラピー(慎重に):
- ペパーミントやユーカリなどの清涼感のある香りは鼻づまりを和らげる効果が期待できますが、妊娠中に使用できるアロマオイルは限られています。必ず妊娠中でも安全とされているものを選び、少量から試しましょう。拡散器で空間に広げるのがおすすめです。直接肌に塗布したり、飲んだりするのは避けましょう。
- 休息とストレスケア:
- 疲労やストレスは免疫力の低下を招き、症状を悪化させることがあります。十分な睡眠を取り、リラックスできる時間を作りましょう。
妊娠中の鼻水・鼻づまりに関するQ&A
Q1: 妊娠中に鼻水・鼻づまりがひどくて、夜眠れません。どうすれば良いですか?
A: 鼻の症状で眠れないのは本当に辛いですよね。以下の対策を組み合わせて試してみてください。
- 寝室の加湿を徹底:加湿器を使い、湿度を50〜60%に保ちましょう。
- 濡れマスクの着用:寝る時に濡れマスクをすると、鼻と喉の乾燥を防ぎ、呼吸が楽になります。
- 枕を高くする:上半身を少し起こすことで、鼻水が流れやすくなり、呼吸が楽になります。
- 鼻腔拡張テープ:鼻に貼ることで鼻腔を広げ、空気の通りを良くするテープを試してみましょう。
- 温める:温かい蒸しタオルを鼻に当てたり、温かい飲み物(白湯など)を飲んだりして、体を温めましょう。
これらのセルフケアでも改善しない場合は、無理せず産婦人科医や耳鼻咽喉科医に相談しましょう。
Q2: 妊娠性鼻炎は、赤ちゃんに何か影響がありますか?
A: 妊娠性鼻炎自体が、直接的にお腹の赤ちゃんに悪影響を与えることはほとんどありませんのでご安心ください。症状がママの不快感や睡眠不足に繋がり、それが間接的にママのストレスになる可能性はありますが、鼻炎の症状が直接赤ちゃんの発育を妨げることはありません。
ただし、鼻づまりで口呼吸が続き、ママの酸素摂取量が極端に低下するような場合は、ごく稀に影響がないとは言えません。しかし、そのような状態になることは非常にまれです。ほとんどのケースで、ママが快適に過ごせるようなケアを行うことで十分です。
Q3: 鼻うがいが苦手です。他に鼻の中を清潔にする方法はありますか?
A: 鼻うがいが苦手な方もいらっしゃいますよね。他に鼻の中を清潔にする方法としては、以下のようなものがあります。
- 市販の鼻スプレー(生理食塩水タイプ):鼻うがいほど大量の水を使わないので、手軽に鼻腔を潤し、分泌物を流すことができます。ドラッグストアなどで購入できます。
- 加湿器の活用:室内の湿度を適切に保つことで、鼻粘膜の乾燥を防ぎ、粘液の排出を促します。
- 温かい蒸気を吸入:お風呂の蒸気や、洗面器にお湯を張って顔を近づけ、蒸気を吸入するだけでも、鼻の通りが良くなります。アロマオイルを数滴垂らす場合は、妊娠中でも安全なものを選びましょう。
これらも鼻の粘膜を潤し、不快感を軽減するのに役立ちます。
Q4: 漢方薬以外で、妊娠中に避けるべき鼻炎薬はありますか?
A: はい、特に注意が必要なのが、市販の血管収縮剤を含む点鼻薬と、プソイドエフェドリンなどの血管収縮作用のある成分を含む内服薬です。これらは鼻の粘膜の血管を収縮させることで鼻づまりを改善しますが、全身の血管にも影響を与え、子宮の血管も収縮させてしまう可能性があります。これにより、赤ちゃんへの血流に影響が出るリスクが指摘されています。
また、抗ヒスタミン薬の一部も、妊娠中の安全性について十分なデータがないものや、眠気を誘発するものがあります。自己判断で市販薬を使用せず、必ずかかりつけの産婦人科医に相談し、指示を仰ぐようにしましょう。
Q5: 産後も鼻水・鼻づまりが続くことはありますか?
A: 妊娠性鼻炎の場合は、出産後、ホルモンバランスが元に戻るにつれて自然に症状が治まることがほとんどです。多くの場合、産後数日〜数週間で改善が見られますが、完全に症状がなくなるまでには数ヶ月かかることもあります。
ただし、産後も症状が続く場合は、以下のような可能性も考えられます。
- アレルギー性鼻炎:もともとあったアレルギー性鼻炎が再燃したり、妊娠で一時的に治まっていた症状が戻ったりするケース。
- 慢性鼻炎:妊娠とは関係なく、慢性的な鼻炎がある場合。
- その他:副鼻腔炎(蓄膿症)など、他の疾患が原因の場合。
もし産後も症状が長く続くようでしたら、耳鼻咽喉科を受診して、適切な診断と治療を受けることをおすすめします。
【まとめ】鼻の不快感はママの頑張る証。漢方の智慧と優しさで、深呼吸できる毎日を
妊娠中の鼻水や鼻づまりは、あなたの体が新しい命のために一生懸命働き、変化している証拠です。苦しい時、不快な時、そして「なぜ私だけ…」と感じる時もあるかもしれません。でも、どうか自分を責めないでください。あなたは、本当に頑張っています。
「また鼻が詰まってきた…」と感じたら、まずは「大丈夫だよ、少し楽になる方法を探そうね」と、自分に優しく声をかけてあげてください。そして、温かい蒸しタオルを鼻に当ててみる。鼻うがいを優しくしてみる。寝室の加湿器のスイッチを入れて、アロマを少し焚いてみる。 そんな、ささやかな行動が、あなたの不快感を和らげてくれるはずです。
もし、西洋薬の使用に抵抗がある、あるいはセルフケアだけではなかなか改善しないと感じるなら、漢方の知恵を取り入れることも検討してみてください。漢方は、あなたの体質全体を見て、冷えや体内の水分の偏りといった根本的な原因にアプローチすることで、鼻の症状を和らげてくれる可能性があります。ただし、漢方薬は必ず専門の医師や薬剤師に相談し、あなたの体に合った、妊娠中でも安全なものを選んでもらうことが何よりも重要です。 決して自己判断で始めないでくださいね。
そして、日々の生活の中では、体を冷やさない温活、適度な湿度管理、規則正しい生活を心がけてください。完璧を目指さなくて大丈夫です。あなたが快適に過ごし、深呼吸できること。それが、お腹の赤ちゃんにとっても、最高の居心地の良い環境となるのです。
この不快な時期も、きっと出産を迎えれば自然と治まっていくはずです。どうか焦らず、ご自身の体の変化を優しく受け止めてあげてください。そして、頑張るあなたを、心から応援しています。